繰り返される水難事故 子どもが溺れる「川」に潜む危険とは
更新日:2022-07-30 20:43:26 5728
毎年夏になると子供の海や川などでの「水の事故」が多くなります。
小さい子どもを持つ親ならば、「またか、まだ小さいのにかわいそう・・・」と思いながらも、「自分たちは大丈夫だろう」と思い込んではいませんか?
私は、ニュースの撮影をする報道カメラマンです。潜水取材班という水の中に潜って撮影するチームの一員で、海や川の環境や生態系の変化などの取材をしています。一方、事件や事故の撮影もしながら、毎年繰り返される「水難事故」の現場に向き合ってきました。
昨年の夏のことです。「子どもが溺れた」という一報で、東京都内の川へ急行しました。
救急車や消防車が駆けつけ、ダイバーが川に潜るなど慌ただしい救助活動をひとしきり撮影して、様子を見守っていると、水中から男の子が引きあげられてきました。河川敷では、親御さんとみられる人が泣き崩れていました。同じ親として、やりきれなくてたまらなくなりました。
「川の事故はなぜ起きるのか?」取材を始めることにしました。
警察庁によると、去年、子どもが犠牲になった水の事故では「川」が半数を超えているといいます。
事故発生現場の分析をすすめて気付いたのは、同じ場所で事故が繰り返されているということ。
そして、その場所が、「流れが速い」など明らかに危険な場所ばかりではなく、子どもたちが水遊びをするような「流れが穏やかな場所」にも多いということでした。
「なぜ、こんなに溺れることが多いのか?」という疑問が浮かびました。
私は潜水カメラマンとして水の中で安全に撮影するために、毎年訓練を受けています。
「事故はどのようなところで、どのように起こるのか?」
実際に川に入って、水中に潜む危険に迫ることにしました。
取材に協力してくれたのは、全国で水難事故調査や事故防止の啓発を行っている「水難学会」です。
水難学会 会長 斎藤秀俊さん
「意外かもしれませんが、ぱっと見た時に、“ここ危ないな”って思うのは、流れが緩やかになっているところなんです。実はそういうところが、深くなっていることが多いんです。これは全国どこの川であろうと、共通していること。一番怖いのは、安全そうな、流れが穏やかなところで、私たちが油断して溺れることなんですね」
斎藤さんが示した「危なそうな場所」。それは、私がこれまでに水難事故の取材で気付いた「流れの穏やかな場所」と重なっていました。
河川敷へ行ってみると、川の水はきれいに澄んでいて、川底まで見えるため、特に恐怖心はわかず、安全にさえ思えました。
水に入って5歩進んだだけで、身長175cmの私の頭のてっぺんまで、一気に沈んだのです。
実際に入るまでは「なんとなく深いのかな?」と覚悟はしていましたが、ここまで急な深みになっているとは思わず、焦りました。
水中カメラで川の中を撮影してみると、川底が掘られて一気に深くなっていました。
この場所は、川の流れが岩にぶつかり川底に向かっているため、土砂が押し流され、深くなっていたのです。
たった5歩、川に入るだけで、大人の背丈全身が沈むという事実に驚き、「もし子どもだったら…」と思うと、改めて恐怖を感じずにはいられませんでした。
“深み”からの脱出時にも溺れる? アリジゴクのような川底
こちらも一見、事故とは無縁そうに見える川ですが、実はここで水の事故が多発しているのです。
一体なぜこの場所で事故が起きるのか、再び川に入って検証してみました。
上流の時と同じように、こちらでも思わぬ深みがありました。水深は2mほど。首ぐらいの水深から、半歩先に進むだけで、一気に足がつかなくなり、全身が沈み込んだのです。
この「深み」、水の中を詳しく撮影してみると、事故につながる要因がわかってきました。
まずは、川底に続く急な斜面の「角度」です。いくつかの地点で、斜面の角度を測ってみると、急なところでの傾斜は30度近くもありました。
さらに、川底の「砂利」を手ですくい上げると、サラサラと柔らかい質感になっていました。
水難学会 理事 犬飼直之さん
「今回、川底には細かな砂が混ざった砂利があるのが確認でき、深みの角度は急なところで28度ぐらいありました。これは足場となる川底の砂が崩れやすい限界ギリギリの角度になり、こうした構造が深みにはまることを助長させていると考えられます」
さらに「深み」から「浅瀬」へと引き返そうとすると、崩れやすい砂利の斜面に足を取られ、溺れてしまう可能性が高まるのです。それは例えるならば、川の中に潜む目に見えない“アリジゴク”のようなもので、とてつもない恐怖を感じました。近年の水難学会の事故調査・研究によると、こうした「深み」にはまりかけて、「戻り際に溺れてしまう」ケースが、全国各地の川でも散見されることがわかってきたそうです。
川遊びに行く前に知っておいてほしい3つのこと
(1) 「川に着いてすぐ」&「帰り際」が危ない
川に着いた時、子どもは「早く水に入って遊びたい!」と興奮状態になっていることが多いです。水着に着替えたら、親が見ていない隙に、そのまま子どもだけで川に入ろうとすることもあるでしょう。事故が起きる時は、最初に子どもだけで川に入り、いきなり深みで溺れるパターンが多いのです。「帰り際」も同様に、親が河川敷で帰り支度をするため撤収作業に集中している間に、子どもだけで川で遊ぶ。気がついたときには子どもがいない。辺りを探すが見つからず、あとで、川底から発見されるケースなども多いです。
(2) 子どもから「目を離さない」ではなく「一緒に川に入って遊ぶ」
同じ場所で繰り返される 痛ましい川の事故